2010年11月26日金曜日

紙片が宝に変わる瞬間(とき)を目撃してきた~全史料協テーマ研究会参加記

事務局2号です。
平成22年11月24日(水)~25日(木)京都府民総合交流プラザで行われた「全国歴史資料保存利用機関連絡協議会」(全史料協)の二日目に参加してきました。

全史料協京都大会のページはこちら

今回の全史料協では、同志社大学企画部の井上真琴氏がテーマ研究会のなかで「目撃せよ!紙片が宝に変わる瞬間(とき)―図書館員のアーカイブ資料探検―」と題して同氏が同大学所蔵の竹林熊彦(および田中稲城)の史料整理をされた経験をもとに非常に興味深いお話をされており、また図書館史のなかでも非常に重要な内容だったため、本ブログに参加記という形で内容を簡単にご紹介させていただきます。

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井上氏はまず、同志社大学には田中稲城、竹林熊彦、さらに同志社図書館学講習所の関係文書等が未整理のまま保存されており、かつては図書館史研究者の求めに応じて必要な資料を探して提供していたが、その整理は課題としてずっと残っていたと紹介した。またその理由として、記録資料と出版物整理の「文節化」の違いが大きかったと指摘した。

すなわち、出所・原秩序尊重・原型保存・記録といった記録資料整理の四原則は図書館資料の整理とは全く異なるものであり、また目録記述の考え方も異なっていて、図書館員の側に、記録資料を扱うノウハウが未成熟だったことに大きな問題があるというわけである。

そこで井上氏は国内大学アーカイブズ、さらに米国・英国の大学アーカイブズを視察し、研修を受講した。とくに海外のアーカイブズでは、社会科教員の教材作成にアーカイブズ資料がどのように活用できるか、専門のアーキビズトがつきっきりで相談に応じる場を目撃し、非常に大きな衝撃を受けたという。

以上のような経験を踏まえて、同志社に残る文書を整理するためにどのような方法を考えたか。職員が手のあいた時間で整理しきれるレベルではない。そこで採用したのが、業務委託とコンサルタントの活用である。業務委託するのは、いつまでに終わらせるかを明確にするため。業務委託である以上、綿密な仕様書の作成と工程表の管理が必須となる。図書整理の外注業者は複数存在するが、アーカイブズの整理が出来る外注業者は存在しない。そこで、記録資料整理に専門的知識を有するコンサルタント(国際資料研究所の小川千代子氏に依頼)を組み合わせることで、この課題をクリアしようと試みた。業務途中で作成される往復のFAX等はすべて記録として残し、マニュアル化に役立てた。

資料は記録資料整理の原則に沿って階層化することにした。また保管にあたってはドキュメントボックスを用い、一点一点をフォルダに入れて管理した。井上氏はこれに加えて、この過程で、初期の『東京大学史紀要』等に載せられた論文・インタビュー記事が非常に役立ったこと。大学史編纂の苦闘記から、多くの事を学んだことを述べられた。

作業にあたり注意した点は、以下の通りである。
①まず対象資料に対する基本的な知識を習得すること。ただしその際、周辺知識の深化は避ける(いつまで調べても終わらないから)ことも心掛けた。
②散逸を防ぎ存在を告知する形でInitial inventory(初期目録)をきちんと作成することとした。
③さらに利用を意識した整理を行うこと(目録情報には翻刻もつけられるものはつけたとのこと)
④個人情報の扱いについて。これは今も名案はない。80年以上前に亡くなった田中稲城に関してはプライバシーの問題は少ないと思われたが、『図書館雑誌』に活動紹介を載せ、公開に先立ってもし問題がある場合には下記あてに連絡を、と呼びかけることにした。
⑤利用リテラシーに関する啓発活動を行うこと。アーカイブズ利用に関しては一定のリテラシーが必要とされることは明らかなので、その啓発にも取り組んだ。

こうしたアーカイブズ・リテラシーの啓発は、なお解決途上の課題でもある。ディジタル化し公開されたデータベース(ディジタルアーカイブ)は、必ずしも記録資料整理の原則にのっとった形で公開されていない(作業を担当した研究者が自らの基準で構築していることもある)ので、どういうときに何を見ればいいか、十分に伝えられていない。たとえば作業担当者は、岩波日本思想大系別巻の近代史料解説を見ながら、刊行図書の年譜記述の誤りを発見するなどして、具体的な検索方法を知り、公文書の扱いに習熟して行った。

ただ、同志社には図書館のほかに社史編纂のセクションもある。井上氏は、教養科目の講義のなかでディジタルアーカイブの適用も試みる事例を紹介しつつ、まだうまくいっているとは言い難いとし、こうしたなかで少なくとも大学内の「内なる」MLA連携をどうすればいいかを模索している段階だと述べて、報告を終えた。

質疑応答では以下のようなやりとりがあった。
Q:点数及び作業担当者、作業日数はいかほどか。採用にあたり特別な条件を課したか。
A:対象資料は約3000点(うち1600点が田中稲城関係)。実際の作業担当者は、歴史に一定の知識を有する者で、月~金、9:00~17:00で2年間働くことが出来るものを1名採用し、作業にあたった。
Q:実際に整理を終えて図書館内からの評価はどうか。厳しい意見などもあるか。
A:レファレンスが大変になったという消極的な意見もあるが、かなり難しいアーカイブズ資料が、ほぼ素人の図書館員でも出来た。ずっと未整理だったものがきれいに見られるようになったことに対する肯定的な意見が多い。ディジタルアーカイブ化することで、家で下調べしてから見に行くことができると利用者からの反応もよい。
Q:作業者はどこまで担当したのか。歴史系の学生を採用したとのことだが、システム的な知識も必要となるのではないか。
A:作業者は資料の掃除、袋詰めから、エクセルのデータ項目表に記述し、csvファイルを出力するところまでやった。今の若い人なら、この程度のエクセルの作業は難なくこなせる。
Q:予算措置などかなり難しい面もあったのではないか。
A:これは長期的な計画でやったこと。図書館員にはこの手の交渉が苦手な人が多いが、極端な話、2人で1年1000万円つけろというのを1人で2年、500万円ずつ、といえば説明がしやすくなる。当初10年くらい提案し続けて重要性を説く必要があるとも思っていた。大事ならば辛抱強く、実現に向けた戦略を立てねばならないのではないか。
Q:同志社の組織アーカイブズはどうするか、もし現時点で図書館の側からのお考えがあれば。また図書館の立場からアーカイブズへの注文があればぜひお聞きしたい。
A:一点目は非常に大きな問題だが、大学内で組織全体を巻き込む形で文書の保存年限を決めるリテンション(保存期間)・スケジュールを作成する必要があると認識している。ただ、全体で急には難しければ、まずは図書館からということで始めたい。また2点目については、報告内で指摘したアーカイブズ・リテラシーの啓発の問題と関わるが、どこに何があるかがわかるのが重要。図書館でいうところの総合目録の構築などが必要なのではないか。

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参考文献(2010/11/27追記)

  • 井上真琴,小川千代子「アーカイブ資料整理へのひとつの試み : 同志社大学所蔵田中稲城文書・竹林熊彦文書の場合」『大学図書館研究』no.77(2006.8)p.1-11
  • 井上真琴,大野愛耶,熊野絢子「公開なった田中稲城文書(同志社大学所蔵)--日本近代図書館成立期の「証言者」たる資料群」『図書館雑誌』99(3)(2005.3)p.170-171
  • 井上氏が紹介されていた同志社大学学術リポジトリ・竹林文庫のディジタルアーカイブはこちら


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井上氏の報告はパワーポイントで実際の史料スライドを交えながらの非常に興味深い報告でした。
同志社が田中稲城帝国図書館長の文書を整理したように、図書館史研究もそろそろ刊行物だけには頼りがたくなってきているように思うので、井上氏の言われた「アーカイブズ・リテラシー」について意識しながら必要な情報を集め、また本ブログでも取り上げていければ、と思っています。

※1 いずれ公式な記録も出るのだと思いますが、本参加記は、図書館史関連情報の観点から井上報告の紹介を試みたものです。井上氏が提示された問題や提言の全てを網羅しきれていないと思いますが、ご容赦ください。
※2 質疑応答を一部追記しました。yuko_matsuzaki様、archivist_kyoto様ご指摘感謝です(2010/11/27)。

2010年11月18日木曜日

第5回勉強会(2010年11月13日)報告

『図書館を育てた人々 日本編I』を読む(4)
廣庭基介「関西文庫協会の創始者:島文次郎」

日時:2010年11月13日(土) 14:00〜16:30
会場:京都商工会議所
発表者:江上敏哲(国際日本文化研究センター)
出席者:12名

京都大学初代附属図書館長だった島文次郎について、江上氏から詳細な文献紹介とともに報告をいただいた。島については廣庭基介氏が詳細な研究を行っており、これと『京都大学附属図書館六十年史』(京都大学附属図書館、1961)が島の事績を尽くしているとも指摘された。また、大学院を出たばかりの島を抜擢し図書館経営にあたらせた総長・木下広次についても興味深い紹介がなされた。報告はさらに一般公開を目指した島の軌跡、関西文庫協会の活動報告等にも及んだ。

主な質問・議論の要旨は以下のとおり。
  • まず、島の史料について質疑があり、報告者から研究の上では廣庭氏が大きな位置を占めている。氏は三代にわたって京大の事務員をされてきた方で、あらゆる史料を把握していると指摘があった。また京都大学文書館に木下の史料も残っていることが紹介された。
  • なぜ島だったのか、という疑問は残るが、帝国大学の卒業生のステータスが相当に高かった時代のことでもあり、極端に異例の人事とまではいえないかもしれない(この点については、議論のなかで、漢学の素養のある家系に生まれ、英文学を修めるというコースをたどった彼は、和漢書・洋書とも理解できる彼が嘱望された、という可能性が示唆された)
  • 法科と島との対立していた時期があるのが興味深い。関西文庫協会の活動にも影響を与えているし、商議会で島が提案した議題は、島が退任してからすんなり通っているという事実もあるようだ。
  • おそらく、島という人の功績は「古典籍」の保存にあったのではないか。年表を見てもかなりの頻度で文書調査に出かけている。
  • 法科の批判にさらされながら奮闘する島の姿には、デジタル化の推進が唱えられるなかで、古典籍の保存をどうしていくかという今日的な課題を考えるうえでも学ぶべきものがありそうだ(さらに、京大図書館に多く残っている「古文書謄写」とも関係がありそうだとの指摘あり)。
  • 島の一般公開に賭けた情熱と周囲の期待については、まだ府立が開館していなかったという背景も踏まえて評価して行く必要があろう。特別閲覧証の交付条件が非常に面白い。戦後の図書館の理想像からみると「一般公開」には程遠いかもしれないが、かなりの数の人が交付されていたようなので、当時としては画期的で、成功したとさえいえるのではないか。

今回は会始まって以来の最多の参加者を迎え、活発な議論が展開された。

終了後は懇親会が行われた。

2010年10月26日火曜日

第5回勉強会のお知らせ(更新しました)

事務局2号です。

先日の研究会にお集まりいただいた方、
誠にありがとうございました。

間宮さんの力に引っ張られたのでしょうか、
色々な話が盛り上がり大変楽しかったです。

さて、以下の要領にて11月の勉強会を開催したいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

日時:11月13日(土) 14:00~
会場:京都商工会議所 2階第一会議室
※会場費の支払いを終えました。遅くなってすみません(10/26追記)。

テキスト
図書館を育てた人々. 日本編 1 / 石井敦. -- 日本図書館協会, 1983.6
http://opac.ndl.go.jp/recordid/000001644230/jpn
http://webcat.nii.ac.jp/cgi-bin/shsproc?id=BN01584842
から江上さんに「島文次郎」に部分のご発表をお願いしました。

会場については、いつも使っている場所がすでに埋まっていたため、
別の会場を検討中です。
決まり次第、本ブログ等でお知らせいたします。

2010年9月12日日曜日

間宮不二雄&青年図書館員聯盟関係文献目録(仮)

事務局2号です。
昨日の報告で用いた文献目録をアップしておきます。

「間宮不二雄&青年図書館員聯盟関連の文献目録」(仮)

倉卒の間に作成したものですので、遺漏などはご意見をいただいて随時訂正していきたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
(WORD2007で作成しています。ご了承ください)

※一般公開に設定されていなかったようです。大変失礼しました(9/11 23:10補記)

第4回勉強会(2010年9月11日)報告

『図書館を育てた人々 日本編I』を読む(3)
もりきよし「間宮不二雄 外から図書館を愛した人」

日時:2010年9月11日(土) 14:00〜16:30
会場:キャンパスプラザ京都2階和室
発表者:長尾宗典(国立国会図書館関西館)
出席者:(50音順)石道尚子, 江上敏哲(国際日本文化研究センター, egamiday)大場利康(国立国会図書館, tsysoba), 佐藤久美子(国立国会図書館関西館, satoqyu), 谷航, 土出郁子(大阪大学附属図書館, itsuchide)長尾宗典(国立国会図書館関西館), 福島幸宏(京都府立総合資料館, archivist_kyoto), 吉間仁子(国立国会図書館関西館), よねいかついちろう(K_y0ne1)

前回米井報告を受け、青年図書館員聯盟の創設者である間宮不二雄に関する論文をもとに報告と討論を行った。間宮の業績は大きく分けて、1.間宮商店の経営、2.青年図書館員聯盟の結成、3.間宮文庫にわけられる。いわゆる三大ツールの完成によって整理分野での業績に注目が集まる青年図書館員聯盟だが、間宮の発想から見ると種々の規格・基準の統一はむしろ前提で、間宮商店の刊行物などを見ると、図書館(とくに学校図書館)の経営論に関心をもっていること、間宮商店の顧客=納入先と、青年図書館員聯盟のメンバーは重なっていて、それが結成の大きな原動力となったこと、などを確認した。
また、森の記事中では触れられていないものの、日本図書館協会との関係、青年図書館員連盟の陳情に見られるような政治活動の評価、中国との関係を初めとする人間関係などは、今後間宮を調べる上での論点になるのではないかと指摘した。青年図書館員聯盟についても、図書館講習所芸艸会との比較や、間宮学校の弟子たちの活躍を丁寧に追っていくことも必要だと指摘した。

主な質問・議論の要旨は以下のとおり。

  • 本人の回想とは裏腹に、間宮が図書館用品に着目した景気が今一つつかめない。アメリカで触れることがあったのだろうか。もう少し知りたいところではある。
  • 間宮と日図協の関係について、関東大震災後に雑誌編集が東京から大阪に移ったとのことだが、震災直後ではなく若干タイムラグがある気がする。関東の雑誌を大阪で刷っていた時期よりも遅れている。逆に、間宮自身が日図協の編集をしながら、青聯図書館員聯盟の活動をしていた時期は重なっている部分もあるので、この辺りもっと詳しく調べると面白そうだ。
  • 間宮商店の経営について、確かに商店には帳簿等の資料が残っていないかもしれないが、当時の大阪の経営者の資産ということになれば、紳士録等の図書である程度埋めていけるかもしれない。大阪産業労働資料館(エルライブラリー)などにいけばヒントがあるのでは?
  • 間宮商店から出ている『町村学校図書館経営ノ実際』の本の内容がもっと知りたい。
  • 間宮が『図書館研究』に書いている論文で軍の予算獲得に学べ、と書いている。政党が弱体化するなかで、軍部は当時革新勢力の期待の的だった面もある。
  • 間宮と中国・軍部との関係について、1930年代に外地に行こうとすれば、主義や心情に関係なく、軍関係者にもあいさつしておくのは経営者の発想としてごく普通のことだったと考えられる。1920年以降になると内地に就職先がなくなってきて、多くの人が外地に転出していくことも含めて、この辺りはイデオロギーによらない丁寧な調査が必要だと思う。
  • 間宮は相当な努力をして立身した実業家という印象がある。大阪の文化人が『上方』という雑誌にいろいろ書いているが、間宮スクールの面々が顔を出していないか調べてみると面白そうだ。
  • 加藤宗厚と間宮がどこで知り合ったのかいまいちわからない。調べて欲しい。
  • 弟子たちは『図書館研究』以外にもいろいろな雑誌に書いている。そちらもフォローしていくと、また違った間宮学校のイメージができると思う。
さらに、参加者からは、戦後のものだけとはいえ、間宮文庫は充実していて、ここにしかない資料もある。以前閲覧に通ったとき、帰り際に「間宮さんも喜んでいるよ」と言っている職員の声を聞いたが、職員もこのコレクションを大事にしているので、積極的に活用すべきであるというコメントがあった。
終了後は懇親会が行われた。

2010年8月9日月曜日

『日本図書館情報学会誌』vol.56 no.2 (2010)の図書館史関連論文

『日本図書館情報学会誌』vol.56 no.2 (2010)に、図書館史関連の論文が掲載されていました。

利根川樹美子「大学図書館の司書職法制化運動:昭和27年(1952)−40年(1965)」 p.101-123

大学図書館における専門職制度の確立に向けた運動の経緯を、運動の勃興か収束まで、運動の中心となってきた各団体等の資料などから論じたものです。大学図書館における専門職制度が、何故現在に至るも確立されていないのか、ということについて関心を持っている向きには、「必読」と言ってよいかもしれません。刺激的な論文です。

その他にも、図書館史関連では、

川崎良孝「河合弘志著『ドイツの公共図書館思想史』京都大学図書館情報学研究会発行, 日本図書館協会発売, 2008年10月, xi, 298p.」(書評)p.124-126

もこの号に掲載されています。

2010年8月6日金曜日

田中稲城関係文献仮目録

事務局2号です。
仮ではあるのですが、田中稲城の事績に関連しそうな文献をいまわかる範囲でリスト化してみました。
必ず漏れがあると思いますので、ご指摘等いただいて充実を図っていけたら、と思っています。


  • 西村竹間「故田中稲城先生略事歴」『図書館雑誌』第21年第2号(1927年2月)
  • 河上謹一「故田中稲城君を憶ふ」『図書館雑誌』第21年第2号(1927年2月)
  • 竹林熊彦「田中稲城著作集(一)」『図書館雑誌』第36年第2号(1942年2月)pp.385-392
  • 竹林熊彦「田中稲城―人と思想」『図書館雑誌』第36年第3号(1942年3月)pp.160-183
  • 竹林熊彦「田中稲城著作集(二)」『図書館雑誌』第36年第7号(1942年7月)pp.516-521
  • 竹林熊彦「田中稲城著作集(三)」『図書館雑誌』第36年第9号(1942年9月)pp.648-656
  • 竹林熊彦「諸家の書簡を通して視たる帝国図書館―田中稲城に寄せられたる―」『図書館雑誌』第36年第10号(1942年10月)pp.713-718
  • 竹林熊彦『近世日本文庫史』(大雅堂, 1943年)
  • 『上野図書館八十年略史』(国立国会図書館支部上野図書館、1953年)
  • 石井 知子「三つの「図書館管理法」とその背景--明治の図書館運動に関連して」『図書館学会年報』第3巻第2号(1956年12月)
  • 武居権内『日本図書館学史序説』(理想社、1960年)
  • 有泉貞夫「田中稲城と帝国図書館の設立」『参考書史研究』第1号(1970年11月)
  • 石井敦『日本近代公共図書館史の研究』(日本図書館協会、1972年)
  • 国立国会図書館編『国立国会図書館三十年史』(国立国会図書館、1979年)
  • 西村正守「わが国最初の図書館学者 田中稲城」石井敦編『図書館を育てた人々』日本編Ⅰ(日本図書館協会、1983年)所収
  • 稲村徹元「新出資料による『図書館管理法』原型の考察--「学校書籍館管理一班」未定稿の成立と東京図書館」『参考書誌研究』第38号(1990年9月)
  • 石山洋「帝国図書館と田中稲城」『日本古書通信』第66巻第12号(2001年12月)
  • 井上真琴、大野愛耶、熊野絢子「公開なった田中稲城文書(同志社大学所蔵)--日本近代図書館成立期の「証言者」たる資料群」『図書館雑誌』第99年第3号(2005年3月)
  • 井上真琴、小川千代子「アーカイブ資料整理へのひとつの試み--同志社大学所蔵田中稲城文書・竹林熊彦文書の場合 (小特集 図書館におけるアーカイブズ)」『大学図書館研究』第77号(2006年8月)
  • 小川徹、奥泉和久、小黒浩司著『公共図書館 サービス・運動の歴史』 1(日本図書館協会、2006年)

2010年8月3日火曜日

日本図書館文化史研究会・研究集会

事務局2号です。

日本図書館文化史研究会が、HPに研究集会・会員総会の案内を掲載しています。

詳細はこちら

2010年9月11日(土)-12日(日)
実践女子大学本館4階442教室 (東京都日野市大坂上4-1-1)

にて開催予定だそうです。


初日は、第4回の日程と重なってしまいましたが(うっかりしていてすみません!)
『市民の図書館』40年記念シンポジウムなど、興味深い内容が並んでいます。

2010年7月30日金曜日

東京文脈の会 活動報告

この会は関西圏の図書館関係者(館種問わず)有志による図書館史の勉強会(読書会)で、2010年3月発足したものです。図書館関係者を中心に細々と活動していますが、あくまで私的な勉強会であり、報告・記載内容は参加者の個人見解にもとづくものです。各人が所属する組織はもとより、以下に掲げる東京文脈の会を除き、その他いかなる団体とも一切関係はありませんので、あらためてここに記載しておきます。

この関西文脈の会は、2009年夏に東京の図書館関係者の私的な勉強会として発足した文脈の会に呼応する形で発足いたしました。その意味で、東京と関西は姉妹団体の関係にあります。
このたび、東京文脈の会事務局の方から、活動内容のご紹介をいただきましたので、図書館史に関連する情報紹介の意味で、その内容を掲載いたします。
東京では『中小レポート』の輪読会を継続的に行っており、今回は第3章以降を扱って議論した、とのことです。

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『中小レポート』輪読会
【日時】 7月29日(木) 19:00~21:00
【報告者】 柳与志夫、小林昌樹
【参加者】 10名

「第3章 図書館資料とその整理」について
  • 「俗悪な出版物」と書いてある箇所は具体的に何か?という疑問に対し、前川氏による山手樹一郎批判があったとの指摘があり、貸本屋批判、公共図書館の貸本屋との棲み分けを指しているのではないかとの指摘があった。
  • これまでの中小レポートの読み方は内在的な読解であり、中小レポートの記述全体を当時の社会状況に置きなおしてみる必要があろう、との意見も出された。
  • 貸本屋研究については、最近ようやく『全国貸本屋新聞』の復刻が出されたが、資料が圧倒的に不足していて、一部の貸本マンガ研究を除くと、まだまだこれから検討課題が多いようである。
  • 亡失対策の部分では、物品会計法規への注目もされているが、法規の解釈の面では疑問がある、との指摘もされた。

「第4章 管理」「第5章 図書館の施設」について

  • 1冊の中で管理について4分の1も記述が当てられているのは画期的で、図書館関係者が触れない組織や法規、広報などの項目が立てられていることは、時代的制約があるとはいえ評価できるのではないか。
  • 「本好き」という職員要件に、愛書家や小説読みではなくて、「情報・知識への関心」を求めている点も評価できる。
  • 統計についても、ルーティンとしてではなく、政策の手段として位置づけられている。

その他、若々しく、全体的なことを考えようとしていることが感じられる一方、収集論についてはちょっと浅いのではないかという意見も出された。

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終了後は懇親会が開かれたそうです。

2010年7月26日月曜日

京都近代史のなかの図書館

事務局2号です。

このほど2刷が出た
丸山宏・伊從勉・高木博志編『みやこの近代』(思文閣出版、初版は2008)に
「日本初の公共図書館」として集書院のことが
また、
「京大図書館の開設」「初代図書館長 島文次郎」と題して
京大図書館や島文次郎、関西文庫協会のことが述べられています。
(いずれも廣庭基介氏の筆によるものです)

京大図書館は、木下総長の構想では一般公開を目指していたらしく
「我が国の如き東京に唯一あるのみ」で不便なので
「京都に之を開設して、我国西部の必要に応ずべし」という
廣庭氏の表現を借りれば「帝国図書館関西館」の構想だった、
と位置づけられています。

また、若手漢詩人のホープで、京都の教養層にも親しまれている
野口寧斎の弟・島文次郎が初代図書館長に着任したことは、
京都の反東京感情を和らげる効果があったという
なかなか興味深い指摘もあります。


なお、思文閣出版が発行している『鴨東通信』no.78には
本書編者の一人である伊從勉氏が
「近代古都の公文書保存と公開」という一文を寄せられています。

「文書保存の管理の能力も歴史都市の格を構成する」

とさらりと書かれていて、(個人的に)思わず唸りました。

2010年7月13日火曜日

第3回勉強会(2010年7月10日)報告

「帰ってきた楠田五郎太:総力戦体制と図書館革新運動」
日時:2010年7月10日(土) 14:00〜16:30
会場:大谷婦人会館 1階 会議室
発表者:米井勝一郎
出席者:9名

今回は番外編として、楠田五郎太(1908~没年不詳)について、楠田についての論考を精力的に発表されている米井氏から本格的な研究報告をいただいた。

楠田は、青年図書館員聯盟の会員であり、昭和期に岡山、兵庫、上海、満州の図書館に勤務し、『動く図書館の研究』(研文館、1935)などの著作がある。米井氏からは、青聯の結成、国民国家と図書館の機能、総力戦体制下の青聯の図書館「革新」の運動、戦後の図書館運動に遺されたもの、等々多彩な論点から楠田の活動評価がなされた。楠田は明治期の図書館界を担った人物のような華やかな学歴を持たないという意味で「周縁化」された図書館員だった。報告では、そうした彼が『動く図書館の研究』などで提言した、図書館の「大衆化」の方向性とは、楠田が満州に向かった後の総力戦体制下の内地でまず萌芽の兆しを見せ、次いで『中小レポート』の「館外奉仕」のなかで再び「帰ってきた」のではないかと、評価された。

さらに、公共圏のゆらぎを伴う現在の図書館の転機のなかで、新たな「革新」を担うのは、正規職員なのか、それとも周縁者として立ち現れた嘱託職員などなのか、そこで三度楠田は帰ってくるのか?という刺激的な問題提起もなされて締めくくられた。
主な議論の要旨は以下のとおり。


  • 青聯が日図協幹部への批判を活発に行っていたとされるが、中田邦造などについてはどのように見ていたのか。
  • 昭和期の青年層の運動として見れば、青聯は宗教の「革新」運動ともかなり類似した構造を持っているように思え、非常に興味深い。たとえば神社研究などでも岡山でこうした運動が知られており、運動の背景には岡山という地域のもつ特殊性があったともいえるかもしれない。
  • 1990年代から唱えられるようになった国民国家論や総力戦体制論は、最近の歴史学では批判も出てきている。その批判に答える形での問題の提示の仕方が必要なのではないか。
  • 楠田は、誰に向けて、誰のための図書館を提示したのか。「国民」や「大衆」、「民衆」など、さまざまな呼び方には概念の違いがある。昭和期に理想とされた「国民」像は、憲法ができる前の明治初期の「国民」像とも当然違うはずだ。彼が主体とする「周縁者」の呼び方と図書館論のプレゼンの仕方の相互連関を抑えて、細かい段階論を設定していくほうがよいのではないか。
  • 楠田は、満州など外地にも渡ったが、そこで暮らす人々は、楠田の図書館論の射程に入ってきているのか。
  • 戦前・戦後を断絶させずに戦後改革の主原因を戦前からの蓄積に見ようとする総力戦体制論を受けて、楠田の戦前の問題提起と戦後の図書館運動の連続性を確認しようという問題意識はわかるが、その間の教育改革(義務教育の延長)は、結果的に利用者層の拡大をもたらしたともいえるわけで、そこを論理的にどう評価していくのか。


議論の終盤に、報告者から、これまで青聯については、三大ツールの完成を称えたり、あるいはファシズムに抗した団体という側面が部分的に評価されてきたが、青聯メンバーの言説を読むと、積極的な国家への参加を説くものがかなり多いという事実がある。そのような青聯の活動を、時代状況のなかに位置づけて読み解くには、批判があるとはいえ、総力戦体制論はかなり有効なツールだと考えているとコメントがなされた。
報告終了後は、懇親会が行われた。

なお、本報告で取り上げられた楠田五郎太については、米井氏の研究のほかに、近年、書物蔵氏による「ゴロウタンは三度死ぬ」金沢文圃閣編刊『文献継承』15(2009.10)所収がある。戦後の図書館史研究のなかで、楠田がなぜ、いかに“忘れられてきたか”を検証したもので、楠田の言説が一度ならず二度までも“帰ってきた”(報告では三度めもあるかもしれない、とも言われた)ことを論証する本報告とは対照的な位置づけともいえる。両者を比較すると、いろいろな論点が浮上しそうであると思われたので、ここにとくに付記しておく。
(文責:長尾)

2010年7月11日日曜日

第4回勉強会のお知らせ

事務局2号です。

本日の研究会にお集まりいただいた方、
また、何よりいろいろ示唆に富むご報告をいただいた米井様、
誠にありがとうございました。
本格的な報告につられて、私も本格的に地が出てしまいました…。
失礼なことも申し上げたかもしれませんが、なにとぞご容赦ください。

さて、9月の勉強会は島文次郎を取り上げる予定でしたが、報告予定者の都合もあり
予定を変更して、青年図書館員聯盟のことをもう少しやりたいと思います。

テキスト

図書館を育てた人々. 日本編 1 / 石井敦. -- 日本図書館協会, 1983.6
http://opac.ndl.go.jp/recordid/000001644230/jpn
http://webcat.nii.ac.jp/cgi-bin/shsproc?id=BN01584842

から、「間宮不二雄」(もり・きよし著)を取り上げます。
報告は、私事務局2号が担当いたします。



日時:9月11日(土) 14:00~
会場:キャンパスプラザ京都 和室(仮予約済)
※7月21日、会場を仮押さえしました。
※7月31日、会場のお金を支払いました。確定です。

どうぞよろしくお願いいたします。

2010年7月9日金曜日

北海道の図書館史

事務局2号です。

私自身、書店に取り寄せを頼んだばかりで、
まだ手元に届いていないのですが、こんな本が出ました。

藤島隆『貸本屋独立社とその系譜』(北海道出版企画、2010.6)


著者は、『北海道図書館史新聞資料集成』などの編著もある藤島隆氏です。
既発表原稿をリライトする形で一冊にまとめられたようですが、
貸本屋のほか、北海道の図書館、青年団と図書館の活動など
かなり具体的な資料をもとに説明されています。

非常に興味深いのは、北方文化を作る基盤として
郷土資料を集める動きなどが位置づけられている点です。
地方文化史のなかの図書館、というテーマについて
じっくり読んで考えたいと思います。



…と、思ったら、書物蔵さんのブログにて
とっくに紹介されていた文献でした。畏るべし。

2010年6月20日日曜日

文献継承第16号

金沢文圃閣から不定期(?)に発行されている小冊子『文献継承』第16号(2010年5月)に、

書物蔵「ホンモノの「日本図書館学会」と「日本図書館研究会」(あったかもしれない大東亜図書館学; 1)」p.1-7

が掲載されています。
戦時期において、日本主義に基づく「日本図書館学」を確立せんとした「日本図書館学会」の活動や主要メンバーを紹介するとともに、その後世への影響について考察する画期的論考です。

また、巻末(p.7)の「長土塀の机上より」では、『「満洲」の図書館(資料展示図録)』(京都ノートルダム女子大学人間文化研究科人間文化専攻, 2010)について紹介しています。

『文献継承』については、前述の論考の著者である書物蔵氏が、自身のブログで未完成ながら総目次を公開しています。第15号掲載の楠田五郎太に関する論考は次回の勉強会で参照予定です。

(2010年7月13日更新 書物蔵さんが、『文献継承』の総目次(完全版?)を公開されていたので、リンク先等を修正しました。)

2010年5月18日火曜日

新刊書案内

事務局2号です。

学文社、図書館情報学シリーズの新刊、『図書館概論』のうち
第4章が図書館の歴史、として図書館史の記述に充てられています。

図書館概論

大串 夏身著 常世田 良著
大串 夏身監修 金沢 みどり監修
出版 : 学文社
サイズ : 21cm / 148p
ISBN : 978-4-7620-2059-9
発行年月 : 2010.4

2010年5月12日水曜日

第3回勉強会

第3回勉強会を次の日程・会場で開催予定です。会場がこれまでと異なりますので、ご注意下さい。

第3回 図書館史勉強会@関西 関西文脈の会
日程:2010年7月10日(土) 14:00〜16:30
会場:大谷婦人会館 2階 和室 国府

今回は番外編です。「帰ってきた楠田五郎太-総力戦体制と図書館革新運動」と題して、米井勝一郎さんに発表いただきます。

参加ご希望の方は、
toshokanshi.kansai at gmail.com (事務局:大場。「 at 」は「@」に置き換えてください。)
まで、御一報ください。事前配布資料がありますので、ぜひお早めにご連絡を。
会費は原則、会場費(6,500円+座机×3=300円+空調費)を割り勘、ということでお願いします。発表者がコピー代を使った場合には、それも加えて割り勘にします。また、飲み物等はペットボトル等をご持参ください(差し入れ歓迎)。
終了後、懇親会を予定しています。

今後も隔月で勉強会を開催予定です。9月には島文次郎を採り上げ(てもらえ)る予定です。日程等については、詳細が決まり次第、またこのブログでお知らせします。

2010年5月8日土曜日

第2回勉強会(2010年5月8日)報告

図書館史勉強会@関西 関西文脈の会 第2回勉強会報告
『図書館を育てた人々 日本編I』を読む(2)湯浅吉郎/市島謙吉
日時:2010年5月8日(土) 14:00〜16:30
会場:キャンパスプラザ京都 2階 和室
発表者:長尾宗典(国立国会図書館関西館)
出席者:石道尚子、大場利康(国立国会図書館関西館, tsysoba)、佐藤久美子(国立国会図書館関西館, satoqyu)、長尾宗典(国立国会図書館関西館)、福島幸宏(京都府立総合資料館, archivist_kyoto)、吉間仁子(国立国会図書館関西館)、米井勝一郎(K_y0ne1)

第1回勉強会に引き続き、個別の論文2本について報告及び質疑応答・議論を行なった。今回は、京都府立図書館長であった湯浅吉郎(1858-1943)、早稲田大学付属図書館長図書館長で日本図書館協会会長を務めた市島謙吉(1860-1944)を取り上げ、略歴・業績及び本書中の評価の問題につき議論した。発表者からは、図書館学者というよりは、明治期の文人型ライブラリアンというべき両者の活動をどう評価するか、という問題提起を行ない、1970年代に確立された公共図書館史像のなかで高い評価をされなかった(=本書であまり触れられていない)図書館における古典籍の収集・保存や展示会などの活動を取り上げ、図書館・博物館・文書館の連携が重視される現在の状況下では、図書館の固有性からははみ出していく文化政策的な方向を志向した両者の活動からも、今日では学ぶべき点があるのではないかと結論づけた。
また参加者より、京都府総合資料館で所蔵している湯浅関係の行政文書につきコメントがあった。
このほか、発表者が見学してきた早稲田大学付属図書館の「市島春城展」の図録についても回覧した。

主な議論の要旨は以下の通り。
  • 湯浅については、高梨章氏が近年精力的に研究されていて、研究の水準を大きく引き上げている。また、長年京都府知事を務めた大森鐘一と湯浅は着任・退任の時期とも近似しており、密接な関係にあると考えられる。京都府政との関わりから、政治史的に追求していく方向も今後考えられるのではないか。
  • 湯浅の業績のなかには、たとえば竹久夢二の展覧会を催し、図書館の前に少女の行列ができるというようなものもあった。これは文人世界の延長にあるものといえるし、図書館の枠にとどまらない博物館・美術館的な世界ともつながっていたと思う。
  • 市島は政治家と呼ぶのが一番ふさわしいタイプだと思うが、「図書館生活二十五快」のようなエッセイを見ると、彼が図書館にも深い愛着を持っていたことがわかり興味深い。引き続き早稲田の図書館の方が精力的に研究を進めていくだろうが、日誌が残っていて翻刻もあるとのことなので、きちんと調べれば、本書中であまり明確には位置づけられていない彼の活動の詳細を追うことができそうだ。
  • 『中小レポート』や『市民の図書館』が提示した公共図書館像は、ごく最近(あるいは今もなお)公共図書館の「聖典」だった。戦前の青聯もそうだが、図書館の「大衆化」を理念に掲げた人々の目には、明治の文人的な図書館人は、厳しく批判すべき対象とうつったのだろう。極端にいってしまえば、彼らにとっては、古典籍ももともと大衆のものというよりブルジョアの蔵書なのであって、そこから出発した書誌学についても、厳しい批判をする向きがあった。その流れは戦後、公共図書館「大衆化」の理念を掲げる人々の間にも継承されていたように思う。
  • 1970年代の公共図書館史の枠組みにとらわれず、湯浅のような文人気質の図書館人の活動を時代の文脈のなかに位置づけていく作業は、今後必要だろう。日露戦後の地方改良運動と図書館の関係について、最近取りざたされているが、それと大森知事―湯浅のラインがどういう関係にあったかを詰めていく作業は、図書館史の新しい切り口になるかもしれない。
終了後は、懇親会が行なわれた。
(文責:長尾)

※本報告の資料をご希望の方は、事務局( toshokanshi.kansai at gmail.com(atは@に置き換えてください)宛に、ご連絡先と配布希望の旨をメールにてお知らせください。折り返しお送りさせていただきます。

2010年5月5日水曜日

『日本図書館情報学会誌』vol.56 no.1に図書館史系の論文など

『日本図書館情報学会誌』(ISSN 1344-8668)のvol.56 no.1(March 2010)に、図書館史系の論文が2本、掲載されています。
  • 呑海沙織「大正期の私立大学図書館:大学令下の大学設置認可要件としての図書館」p.1-16
大正7年(1918)の大学令下で私立大学設立認可にあたって、図書館についてどのような要件が求められたのか、そして、私立大学側の図書館の整備状況について検討した上で、私立大学図書館の整備に大学令が果たした役割を論じています。
  • 石原眞理「横浜アメリカ文化センター所蔵資料と設置者の意図」p.17-33
現在、神奈川県立図書館に残されているACC文庫の資料から、横浜アメリカ文化センター、とその前身である横浜CIE図書館の蔵書について分析を行なっています。

このほか、 「2009年度日本図書館情報学会学会賞選考委員会報告」(p.41-44)では、学会賞を受賞した中村百合子『占領下日本の学校図書館改革:アメリカの学校図書館の受容』(慶應義塾大学出版会, 2009)、奨励賞を受賞した汐崎順子『児童サービスの歴史:戦後日本の公共図書館における児童サービスの発展』(創元社, 2007)について、受賞理由等が紹介されています。

2010年4月11日日曜日

新町演舞場と大阪屋

図書館史そのもの、というわけではないですが、その周辺ということで。

福山琢磨「新町演舞場と大阪屋−今も残る往時の面影−」『大阪春秋』平成22年春号(138号)p.70-73.

という記事が、取次でありMARC製作会社である大阪屋の社屋にまつわる歴史についてまとめています。戦後初期の日本出版配給統制株式会社社屋の写真なども掲載されており、出版史に関心のある方には、参考になるかと。大阪屋社屋のレンガ造りの部分は、元々は新町の演舞場だったんですね。
(大阪屋の社屋については、
http://www.osakaya.co.jp/kaisya/home.html
の写真を参照のこと。)
また、地下倉庫は戦後初期の状態がほぼそのまま残されているそうです。
表紙は現在の大阪屋の社屋、付録の戦前住宅地図の裏に記事中に掲載された写真が拡大掲載されています。

2010年3月21日日曜日

第2回勉強会

第2回勉強会を次の日程・会場で開催予定です(会場費をまだ払ってないのですが)。会場は前回と同じところです。

第2回 図書館史勉強会@関西 関西文脈の会
日程:2010年5月8日(土) 14:00〜16:30
会場:キャンパスプラザ京都 2階 和室

第1回に引続き、

図書館を育てた人々. 日本編 1 / 石井敦. -- 日本図書館協会, 1983.6
http://opac.ndl.go.jp/recordid/000001644230/jpn
http://webcat.nii.ac.jp/cgi-bin/shsproc?id=BN01584842

を読んでいきます。お題は、湯浅吉郎、市島謙吉(春城)です(発表者は事務局2号にお願いしています)。

参加ご希望の方は、
toshokanshi.kansai at gmail.com (事務局:大場。「 at 」は「@」に置き換えてください。)
まで、御一報ください。また、定員10名の部屋で、ちんまりとやります。
前回、会費について事前のお知らせを忘れていていました(すみませんでした>第1回参加者各位)。原則、会場費(4,300円)を割り勘、ということでお願いします。発表者がコピー代を使った場合には、それも加えて割り勘にします。また、飲み物等はペットボトル等をご持参ください(差し入れ歓迎)。
終了後、懇親会を予定しています。


今後は隔月で勉強会を開催予定です。7月は番外編で楠田五郎太、9月には島文次郎を採り上げ(てもらえ)る予定です。日程等については、詳細が決まり次第、またこのブログでお知らせします。

2010年3月8日月曜日

田中稲城関係史料についての補足

事務局2号です。
遠路第1回勉強会にお集まりいただいた皆様、ありがとうございました。

研究会の席上できちんと補足出来なかったのですが、
田中稲城関係文書については、そもそも国立国会図書館憲政資料室にも
同志社大学のものからとったマイクロフィルム版の所蔵があります。
http://www.ndl.go.jp/jp/data/kensei_shiryo/kensei/tanakainagi.html

伊藤隆・季武嘉也編『近現代日本人物史料情報事典』2(吉川弘文館、2005)には
熊野絢子・井上真琴の両氏による史料の紹介が掲載されています。
竹林熊彦による、田中研究の紹介もあります。
  • 「田中稲城:人と業績」『図書館雑誌』第36巻第3号(1942)所収
  • 「田中稲城著作集」『図書館雑誌』第36巻第6,7,9号(1942)所収
  • 『近世日本文庫史』(大雅堂、1943)

2010年3月7日日曜日

第1回勉強会(2010年3月6日)報告

図書館史勉強会@関西 関西文脈の会 第1回勉強会報告
『図書館を育てた人々 日本編I』を読む(1)田中稲城/伊東平蔵
日時:2010年3月6日(土) 14:00〜16:30
会場:キャンパスプラザ京都 2階 和室
発表者:大場利康(国立国会図書館関西館, tsysoba)
出席者(50音順):石道尚子、江上敏哲(国際日本文化研究センター, egamiday)、佐藤久美子(国立国会図書館関西館, satoqyu)、谷航、長尾宗典(国立国会図書館関西館)、吉間仁子(国立国会図書館関西館)、米井勝一郎(K_y0ne1)



冒頭、事務局でもある発表者から、勉強会開催までの経緯について次のような概略説明があった。この勉強会は、東京で国立国会図書館職員等を中心に行なわれている勉強会「文脈の会」メンバーのうち、二人が関西館に揃ったことをきっかけにしたもの。さらに「図書館員であつまって飲み会@大阪」で発表者が飲み会参加者に声をかけた結果、何人か関心を示す人がいたことで、具体化したものである。

以下、発表者から資料に従って報告が行われた。まず、何故、石井敦編『図書館を育てた人々 日本編1』(日本図書館協会, 1983)を題材として選択したのかについて説明があり、続いて、西村正守「田中稲城 我が国最初の図書館学者」について、概略の説明と、補足情報の紹介があった。
 出席者からは、田中稲城について論文を書いている有泉貞夫が、日本政治史で著名な研究者(基礎的な文献をいくつも執筆)であるといった紹介や、同志社大学が所蔵する田中稲城文書とこれを含む竹林熊彦文書について、実際に現物を見に行きたい、といった希望が出された。(終了後、Twitter上では、竹林熊彦文書と田中稲城文書については、同志社大学の貴重書デジタルアーカイブの竹林文庫として、細目の検索と一部本文画像の閲覧が可能となっていることが紹介されたので補足しておく。)

休憩を挟み、後半は竹内悊「伊東平蔵 先覚者の中の先覚者」について、概要説明と、補足情報の紹介が発表者から行われた。伊東平蔵の大橋図書館時代については、三康図書館に資料が残っている可能性があること、伊東の書簡・日記等については現在も遺族が持っている可能性が高いのではないか、といった指摘が参加者から寄せられた。また伊東の図書館に関する知識の習得については、初期の文部省勤務時代についても確認する必要があるといった指摘があった。

発表終了後は、雑談的な懇談となり、次のような話題が取り上げられた。
  • 『図書館を育てた人々 日本編1』に採り上げられている人々は、出身階層(旧藩士など)・学歴(帝大・留学経験)などから見ても、ほとんどがエリートであるが、一方で、青年図書館員聯盟のメンバーはそれとは対照的な出身・学歴であり、『図書館を…』に出てくるような人たちに対する批判者としての性格が強かったのでは。
  • 『図書館を育てた…』から、原形となった『図書館雑誌』の連載には登場した内田魯庵が落とされているというのは、内田が「図書館員」ではなかったからではないか。図書館を育てた、という意味では、出版関係者など、もっと広い領域の人が採り上げられていてもよいはずだが、図書館員中心の選択になっているようにも見える。
  • 『図書館雑誌』の索引は、「図書館雑誌総索引」よりも、学術文献普及協会の復刻版の索引の方が、詳細で信頼性が高い。
  • ナショナリズムと図書館の結びつきについては、戦後、語られにくい時代が続いていたが、実際には、戦前に図書館に積極的に関わった人々の多くは、国民国家の確立を目指したナショナリストだったのではないか。博物館とナショナリズム、アーカイブズとナショナリズムという論点は比較的頻繁に言及されるが、図書館についても同様の視点が必要ではないか。
終了後は、懇親会が行なわれた。
(文責・大場)

発表資料(pptxファイル, 239KB)(背景なしpdfファイル, 200KB)

2010年3月4日木曜日

早稲田大学初代図書館長・市島春城展

初投稿の事務局2号です。

初投稿が関西地域の話題でなくて恐縮ですが、偶々見つけたのでお知らせします。
東京方面に行かれるご予定の方、ちょっと足を運ばれてはいかがでしょうか。

早稲田大学図書館が、初代館長・春城市島謙吉の生誕150年を記念し、
その生涯を様々な資料によってたどる記念展を開催するそうです。

生誕150年記念:市島春城展【3/5~4/21】
期間 : 2010年03月05日(金)~2010年04月21日(水)
時間 : (展示室)10:00~18:00 (記念室)10:00~17:00(土:~14:00)
記念室は会議等で利用する場合、閉室いたします。
問合先 : 早稲田大学図書館 tel:03-3203-5581

http://www.wul.waseda.ac.jp/news/news_detail.html?news_no=130


同大学図書館のホームページから引用すると、

「島は自らの目と足で資料収集に尽力し、就任時に3万冊ほどだった蔵書を5年目には10万冊の大台に乗せました。稀覯本の収集にもその才を発揮、現在、国宝や重要文化財に指定されている資料をはじめ、さまざまな貴重な資料が館蔵となったのも市島館長時代のことです。しかし、そうした資料も所蔵しているだけでは無いものと同じ、死蔵である、と考えた市島は、資料の積極的な公開を目指し、さまざまな取組みを進めましたが、その姿勢は現在の図書館にも通じるところがあります。」

とあるので、図書館史についても何か示唆があるかもしれません。

ちなみに、石井敦編『図書館を育てた人々 日本編1』では、
「『図書館雑誌』の育ての親」として市島を追想する記事が載せられています。

2010年2月13日土曜日

『図書館雑誌』2010年2月号(104巻2号)図書館史関連記事

タイトルのとおりですが、『図書館雑誌』2010年2月号(104巻2号)に、図書館史に関係する記事が2つ掲載されています。

  • 天谷真彰「金光図書館報『土』についての懇談から--なぜ、戦後の図書館史に関心が寄せられないのか(北から南から)」p.100-102.
  • 井上勝「講演会「ヴォーリズと近江兄弟社図書館」について」p.104.

前者は、2009年11月に金光図書館で行われた天谷氏による講演「現代図書館考 金光図書館報『土』の創刊から60年」の概要の紹介と、そこでの何故『土』は知られていないのかという質問から、戦後の図書館史に触れることの重要性を論じています。

後者は、滋賀県の偉人の一人、ヴォーリズゆかりの近江兄弟社図書館に関する研究状況と2009年11月に近江八幡市立図書館で行われた講演会についての報告です。井上氏は日本図書館協会滋賀部会の有志による「近江兄弟社図書館資料保存研究会」の代表とのことで、この研究会では、文書群の整理や報告会などを今後も継続するようです。

2010年2月6日土曜日

藤井淑禎『高度成長期に愛された本たち』

これまた、旧聞に属するかもしれませんが、藤井淑禎『高度成長期に愛された本たち』(岩波書店, 2009)には、戦後の公共図書館と読書との関係を紹介・分析した箇所があります。

まず、貸本屋について論じた部分で、公共図書館との関係にも触れ、『図書館雑誌』1956年5月号における、貸本屋特集における議論を紹介しています(こんな特集もやってたんですね。バックナンバー、電子化して有償でもいいから配信してほしい…)。ちなみに図書館側は、貸本屋との共存・協力に肯定的だったとのこと。(p.111-114)

また、読書サークル(グループ)に関して論じた部分では、1950年代半ばに現れてきた、公共図書館による移動図書館/巡回文庫と自主的な読書活動の関連が紹介されています(p.121-134)。ここで引用されているのは、有山崧(山+松)「読書運動を展開しよう−民衆の図書館として」(『図書館雑誌』1956年9月号)や、蒲池正夫「読書を進める社会教育行政−そのあり方」(『社会教育』1963年4月号)などです。

2010年1月29日金曜日

坂西志保さん

図書館史ネタも時々登場する「神保町系オタオタ日記」に「坂西志保さんが好き」(2010-01-28)というエントリーが。(参考)のリンク先もぜひ。
ちなみに、坂西志保は、第二次大戦前に米議会図書館の司書として活躍された方です(というのは、偏った紹介かもしれませんが)。

2010年1月12日火曜日

山口県図書館協会創立100年記念誌

やや旧聞に属するかもしれませんが、

山口県図書館協会創立100年記念誌: 明治42年、全国初の県図書館協会誕生 / 山口県図書館協会創立百年記念誌編集委員会編集. -- 山口市: 山口県図書館協会, 2009.10.

が出ています。
bk1などで入手可能です(2010年1月12日現在)。
A4サイズ、91ページで、本文編・年表編・資料編の3部構成。本文編はさらに歴史と現況に分かれています。基本は協会史なので、個々の図書館や、人物についての記述は少なめですが、本文の歴史記述部分では、戦前、戦中、戦後の主な事象が、簡潔にまとめられています。例えば、日本図書館協会山口支部時代に、支部としての会費滞納が問題になったなど、興味深いエピソードも記述されています。

2010年1月9日土曜日

京都府総合資料館の図書館史関連資料

京都府立総合資料館(http://www.pref.kyoto.jp/shiryokan/index.html)では、京都府総合資料館自身と、総合資料館等を管轄していた文化芸術室関係の文書を公開しています。

・京都府立総合資料館文書
http://www.pref.kyoto.jp/shiryokan/resources/g-sinki6b.pdf

・文化芸術室関係文書
http://www.pref.kyoto.jp/shiryokan/resources/g-sinki6.pdf

特に、京都府立総合資料館文書には、日本図書館協会関連の文書のほか、戦後初期の京都図書館協会関連の文書が含まれており、興味深いです(文化芸術室の方も、文化政策史的に面白そう)
ぜひ、この勉強会で一度見に行きましょう。
(archivist_kyotoさん、情報、ありがとうございました。)

第1回勉強会

以前から声をかけていた皆様、お待たせしました。第1回勉強会を次の日程で開催します(ただし、まだ会場費を払ってないので、若干リスクあり)→終了しました。

第1回 図書館史勉強会@関西 関西文脈の会(仮称)

日程:2010年3月6日 14:00〜16:30
会場:キャンパスプラザ京都 2階 和室

テーマは、

図書館を育てた人々. 日本編 1 / 石井敦. -- 日本図書館協会, 1983.6
http://opac.ndl.go.jp/recordid/000001644230/jpn
http://webcat.nii.ac.jp/cgi-bin/shsproc?id=BN01584842

とします。
第1回なので、言い出しっぺの事務局が発表して、皆さんに突っ込んでもらう想定です。
とりあえず、最初の二三〜四人分を想定してます(田中稲城、伊東平蔵、湯浅吉郎、市島謙吉)が、とりあえず、準備が間に合う範囲で。
合わせて、第2回以降の進め方などについても、ご相談したいと思います。

参加ご希望の方は、
toshokanshi.kansai at gmail.com (事務局:大場。「 at 」は「@」に置き換えてください。)
まで、御一報ください。

それほど広い部屋ではないですが(10名用)、多少は飛び込みも大丈夫だと思います。

(2010-01-10 会場費の支払が済んだので、関連部分を修正しました。また、部屋としては10名用とのことでしたので、それを明記しました。)
(2010-03-04 最初の二人分しか準備できなさそうなので、三〜四人のところを削ってしまいました。)