2012年9月1日土曜日

第15回勉強会(2012年8月26日)報告

「占領期京都と京都図書館協会の成立 」
日時:8月26日(日) 14:00~17:00
会場:京都商工会議所第二会議室
報告者:福島 幸宏氏(京都府立総合資料館)

今回は福島氏から、占領期京都という文脈のなかで、1947年に設立された京都図書館協会の展開について発表いただいた。

当日のtwitterによるつぶやきまとめはこちらから。

はじめに、本報告では、当事者による回顧や断片的な記述から脱却した占領期京都の図書館史をデッサンすることを目的とするという位置づけが述べられ、研究史の批判的整理を踏まえて、とくに二つの方法的な視点が述べられた。一つは、「占領期京都」という特殊性を意識した検証するという地域の視点、もう一つは、制度史や個人の伝記的研究に傾斜しがちな研究史の枠組みを超えて、団体の活動を取り上げるという視点であった。

 京都府立総合資料館にある簿冊二冊と京都図書館協会の会報を基礎資料として行なわれた。

 1.占領期京都と文化政策

 京都の占領期研究はまだ事実の掘り起こし段階にとどまっているとされるが、大都市のなかでは比較的軽微な被害に留まり、占領軍にとって西日本の拠点になったこと、大学の街であり、知識人層が流入してきたこと、同志社を中心とするキリスト教人脈があり、占領政策の中での民主教育推進のモデル地区として京都が日米両国から期待される場であったことが指摘された。

2.京都図書館協会への胎動


 占領期京都では協会設置に繋がるいくつかの動きが存在した。大佐三四五(おおさ・みよご、日本外政協会・米軍将校倶楽部図書館長)や西村精一(府立図書館長)が議論に参加した図書館法制定への関与、青年図書館員聯盟の後を受けて誕生した日本図書館研究会、図書館員同志社図書館講習所の存在、第六軍司令官クルーガー大将が残したクルーガー図書館の活動、などである。図書館法制定に向けて大佐が中心となり、戦前の議論に占領軍の意向をふまえた議論が行なわれた。戦争下で沈黙されられていた人々(たとえば青聯)の復活に見えるが、連続性だけでなく、ここで新たな人材が入って来ていることも重要だと指摘された。

3.京都図書館協会の設立

 こうした中で、1947年10月に京都図書館協会が設立される。準備委員会では座長に小野則秋が、11月の発会式では湯浅八郎が会長に就任した。これは新しいアメリカの図書館技術を吸収するための対外的貫禄を持った人物が会長に相応しいという期待によるものであった。初期の規則案には「求人求職の斡旋及び推薦」の項目もあった。京都市内の参加が多かったが、ユニークなのは、島津製作所伏見工場の工場長が代表として参加していたことである。初期協会の特徴としては、同志社を中核とする戦前から実績ある大学系の図書館員を軸にした活動だったこと、学校図書館中心の活動・講習会、読書サークル活動を行なっていたことが挙げられる。学校図書館中心の活動は、学校教育法の図書館必置義務に対応するためだったとも指摘された。また、和辻春次顕彰のために創立された和風図書館(ここでいう和風とは、和辻の遺風の意で洋風に対立する概念ではないらしい)が結節点となり、戦後の文化運動の一つの拠点になっていたことも指摘された。

 4.京都図書館協会の展開

 京都図書館協会の展開のなかで重要な役割を担ったのが、和風図書館の北村信太郎であった。北村は社会教育課主事となり、大佐に代わって府の図書館行政の中心的役割を果たしていくことになる。協会は1948年以降、学校図書館に関する意見書を頻繁に提出し、こうした運動は近畿、やがて全国レベルでの結集につながっていくことになった。また1949年4月には、京都図書館協会は日本図書館協会の京都支部を兼ねる文書も存在している。1950年に京都で行なわれた全国図書館協会では400名が参加し、大佐が府県協議会と日図協の連携強化を提案したりした。また、文部省や設立直後の国立国会図書館を頼りにするのではなく、協会が統一的に活動して、出版社とも連携しながら良書普及を行なって行くことを事業として確認していた。同じ頃、北村は、同志社の小野、竹林熊彦らとともに、府内各地で講習会の地方開催を行なっていった。しかし、協会は全国図書館大会が行なわれた1950年を画期として、協会の運動団体としての性質は変わっていった。湯浅の東京への異動、小野の教職追放等のほか、求職斡旋など当初の協会が保持してきた独占的地位は次第にくずれたこと、また1950年に図書館法が公布されて大学での司書課程が整備されていったことなどが理由として挙げられた。

 結論として、設立当初の京都図書館協会は、良書推薦や京都知識人との連携を武器に活動し、占領初期の重層的な動向が反映した組織だったことが述べられた。また、最後に図書館史における戦前と戦後の連続/非連続が論じられ、テクニカルな部分での連続性は強く認められるものの、思想的な断絶ということも意識されるべきではないかという問題提起がなされた。

主な質疑と応答は以下の通り

  • 竹林熊彦の著作を読んでいると、戦前戦後の断絶や変化は表立って出てこない。それでも思想的断絶を重く見るということか? →竹林の中で矛盾するかしないかの問題ではない。竹林自身が矛盾を感じていないことは確かだろうが、それが見えなくなるのが今回批判したかった個人史の限界でもある。竹林が新しい状況に対して論じるべき問題を何故論じなかったのかという問題は残る。書かれたものだけでなく書かれなかったものを重く見たい。とくに竹林は理念的な話が多く、実践の話をしない。したがって同時代の人の話が出てこない。その辺が事態をわかりにくくしている。
  • 出版社と関わっての良書推薦とは? →日本図書館協会の選定図書などのようなもの。戦前・戦後で、良書の基準は変わるけれど、構造は変わらない。図書館が出版社に働きかけてもっと良い本を出してくだいとお願いするというもの。
  • 同志社の資料は誰でも見られる? →公開されている。
  • 求職支援とか、いまこういう運動は必要か? →ギルドの意味はあるが、むしろ文化資源を扱う者同士、図書館に限らず広くMALUIで連携して行ったほうがいいというのが報告者の立場(会場からも複数の意見あり)。
  • 京都読書サークルの論文をあまり見たことが無いので知っている人がいたら是非教えて欲しい。
  • 話がどんどん広がってしまうけれど、非常に興味深いテーマなので。一つは、協会主力メンバーが新しいアメリカの図書館(CIE図書館)をどう見たかの問題。先行研究で批判されたCIE事例と今日の事例を組み合わせるとどういう占領期像が浮かんでくるのか。史料の掘り起こしは大変だと思うが知りたい。また、京都から近畿圏へ拡大したというお話があるが、大阪(府立)や神戸(市立)と比べたときにどうだったのか。そのなかでこそ、占領期京都の地域的特殊性の話は活きるように感じた。

今回は福島氏と江上氏の協力により初めてのUstream中継(生放送)にも取り組み、20名以上の視聴があった。
終了後は懇親会が催された。

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