2012年12月17日月曜日

第17回勉強会(2012年12月16日)報告

「長田史料について」
日時:2012年12月16日(日) 14:00-17:00
会場:京都商工会議所 第一会議室
発表者:門上 光夫氏
出席者:15名

 当日の出席者によるtwitter上のつぶやきをまとめたものはこちら

 今回は、十五年戦争期に大阪府立図書館長だった長田富作(おさだ・とみさく)が遺した図書館活動に関する史料を紹介していただいた。長田は広島高等師範学校卒業後、大阪府視学、大阪府立夕陽丘高等女学校長等を歴任した後昭和3年に大阪府立図書館司書となった。書誌学者で図書館学に関する著作はなく、また田島清『回想のなかの図書館』での評価も芳しくない。
 同史料群は長らく大阪府立中之島図書館に置かれていたが、発表者の門上氏が関わっていた『中之島百年』編纂時に使用された。書簡と文書に分かれ、文書については一通り整理が完了し、今回の報告となった。書簡については今後整理を進める予定だという。
 史料群は大阪府立図書館の庶務・展示会・貸出文庫関係、また大阪や近畿地方の連絡組織関係、日本図書館協会関係、中央図書館長協会関係のものが全480点存在している。
 報告では史料群のなかから、府立図書館出納手講習用に用いられた「図書館概論」や青年層のための国民精神総動員文庫関連の史料、戦地への「貸出」記録、読書会の史料、大阪文化施設協会の史料、日本図書館協会や中央図書館長協会関係の議事次第や名簿などがあることが紹介された。
 また、門上氏から、戦時期の図書館活動に関する一次史料の発掘をこれから進めていく必要があること、並びに戦時期の図書館活動を日本の近代の歴史の中にどう位置づけて行くかという点について問題提起がなされた。

主な質疑は以下のとおり。

  • 大阪の公文書が焼けてしまっている中で貴重なものと考えられるが、残存している分の公文書(起案文書等)とこの長田史料の文書は連動しているか。→公文書についてはいつどのようなものが作成されたか、年表も作って調査してみたが、長田史料に残っているものと時期的にズレており、府が発信して図書館で受信した(あるいはその逆)のような関連性は長田史料のなかからは認められないように思う。なお庶務関係文書は人事や給与、施設などお金が絡むものが中心で、これで全部というわけではない。
  • この史料群を、長田「史料」として命名してよいか。出所などはどうなっているか。→命名は『中之島百年』編纂以来のもの。元々長田の退任後に風呂敷包にくるんで別置してあったものなので、他のグループからの混入はなく、比較的まとまった塊だと考える。
  • 未整理の書簡の点数は何点くらい?→残念ながらまだ確定できていないが、段ボール何箱というような量の多さではない。
  • 読書会の例で山田村が挙げられているが、ここは戦前争議が多かった地域で、『吹田市史』にも数多く史料発掘されているはず。見ると関連のものが出てくるかもしれない。
  • 戦時期の「発明文献」展示会は、前回阪大の田中敬についての報告でも似た話が出てきた。阪大と何か連動した企画などはあるのか。→今のところわからない。
  • 大阪市が作った『町会文庫』が入っている。この頃の府と市の関係は?また文化施設の連絡という点で、前任の今井館長は退任した後美術館長になっていたと思うが、何か長田さん以外の人の動きが見えてくる史料はあるか。→府市の連絡は不明。中央図書館に指定されたあとも各館にどういうことをやっていたか具体的にわかるものは発見できていない。今井貫一はこの当時亡くなっているので今井さんが動いたということはないが、今後も調べてみる。
  • 文化施設の連絡というのは、あまり聞いたことが無い、東京や京都のような大都市ではやっていないと思う。大阪独自という可能性もあるので、史料的な価値は高そう。
  • 大阪文化施設協会が面白い。文化講演会のお知らせ(プログラム?)があるようだが、どんな人が呼ばれていたのか。それによって同会の性格付けはできるか?→大阪商科大学長で経済学者の本庄栄治郎などを呼んでいる。地元の人を招いている。
  • 戦時下の巡回文庫に独自性があるとしたら、従来来なかった層に閲覧させていたということになると思うが、在郷軍人会とか、そういうところに本が行っていたのか。→来館出来ない層に届けるという面は確かにあり。戦時下はとくに就労すべき「青年層」の補修機能を強調している。
そのほか、こういった史料を書庫で見つけたらどうしたらよいかについて、様々な意見交換がなされた。
終了後は忘年会が催された。